
伊藤さんは三電計装株式会社の執行役員、うどん県電力株式会社の営業部長でもある。12年前、三電計装で太陽光発電を扱うエコシステム部を立ち上げた。お客さんに薦めるにはまず自分からと、自宅にソーラーパネルを設置。売電収入も魅力的ではあったが、自分も二酸化炭素削減に貢献できているのだと思うとうれしかった。自然エネルギーに携わるようになって、人生が大きく変わった。
それまで意識していなかった太陽の恵みを感じ、日光があるからこそ植物が育ち、動物も生きられるのだと思うように。人間も生物の一つなのだとあらためて気付かされた。食べ物が出来る過程にも興味を持った。もともと兼業農家で米を作っていたが、2007年から無農薬無化学肥料で小麦栽培を、昨年からは試験的にニンニク栽培も始めた。
うどん県電力を続けるうちに、新たなアイデアが浮かんだ。「アパートなど賃貸物件に住む人は、ソーラーパネルを取り付けたくても出来ません。そういう思いの受け皿になればと市民ファンドの発電所を作ろうと思いました。出資することで太陽光発電事業に参画できます」

発電所の建設にかかった9000万円のうち、約3分の1を市民ファンドとして出資を募る。小口が10万円で200口、大口が50万円で22口。売電収入で小口、大口ともに10年かけて出資額を返済する予定だ。そして4月末から市民ファンドの受付を開始した。
配当として香川の農産物や加工品を贈ることも考えている。地産地消が一つのキーワード。地元で作った電気を地元で消費するほか、ソーラーパネルは国産品、市民ファンドの配当は県産品ということにこだわる。オリーブや黒ニンニク、アスパラガスといった農産物を贈るだけでなく、うどん打ち体験を含むツアーの実施も計画中。「農業の活性化に一役買えたら」
伊藤さんは官民協同の「うどんまるごと循環プロジェクト」にも参加。廃棄処分となるうどんを発酵させてメタンガスを生成し、バイオマス発電を行う。さらに生成の過程で出た残りかすから液肥を作り、それを小麦栽培に使って、出来た小麦粉でまたうどんを作るというプロジェクトだ。伊藤さんの小麦畑でもうどん液肥を使う。
もちろん、天候に左右され、いかに電気を安定供給するかなどの課題もある。また、今後新たな発電所を作るとなると「うさんこやま」よりは、売電単価は下がる。それでも伊藤さんは自然エネルギーの広がりに明るい未来を見る。「エネルギー自給率を考えると、小規模分散型太陽光発電所を増やす必要があります。それも市民参画型が望ましい。未来の子どもたちのため、うさんこやまをモデルケースに第2弾、第3弾の建設を計画しています」
太陽の恵みが電気やうどん、地域のにぎわいを生み出す。5月は1年のうちで一番発電量が多い月だという。伊藤さんの目指す循環型社会に向けて、それぞれの歯車がぴたりと合うように、今動き始めた。
伊藤 伸一 | いとう のぶいち
- 1953年9月 高松市国分寺町生まれ
1976年3月 同志社大学工学部電気工学科 卒業
1982年1月 三電計装株式会社 入社
2012年7月 うどん県電力株式会社 営業部長(兼務)
2013年10月 うさんこやま電力合同会社 代表社員 就任(兼務)
2015年4月 三電計装株式会社 執行役員
- 写真
うさんこやま電力合同会社
- 所在地
- 高松市国分寺町福家甲2734-1
- TEL
- 090-1001-3011
- 事業の概要
- 太陽光その他再生可能エネルギーを利用した発電・売電事業ほか
- 資本金
- 30万円
- 社員数
- 業務執行社員 1名
- 確認日
- 2018.01.04
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