人手不足解消へ ベトナムと日本の懸け橋に

トクシングループ 代表 小林 有二さん

Interview

2018.10.04

トクシンテクノで鉄製階段をつくるベトナム人技能実習生と=多度津町西港町

トクシンテクノで鉄製階段をつくるベトナム人技能実習生と=多度津町西港町

雇用支援の新ビジネス

「ベトナムの若い力が我が社を助けてくれた。この経験と培ったノウハウを生かして、日本の中小企業の経営者を支えたいと思ったんです」

深刻な人手不足が経営者を悩ませている。多度津町のトクシングループを率いる小林有二さん(49)もまた、かつて同じ悩みを抱えていた。救いを求めたのがベトナムだった。

鉄製の階段を専門につくる鉄工所「トクシンテクノ」。2013年からベトナムの大卒生を技能実習生として受け入れている。一昨年には鉄製建物の設計図をつくる「トクシンベトナム」を現地に設立。現在、多度津町のグループ4社を含め、総勢50人程のベトナム人を雇用している。「彼らは真面目で仕事を覚えるのも早く、何よりハングリーです。英語や中国語を話せる人材もいて、日本人スタッフにも良い刺激になっています」

人手不足を克服した小林さんは、ある時思った。「うちが困っているんだから、よそも困っているんじゃないだろうか」
5月に開催した雇用支援ツアー時の  面接の様子=ベトナム・ハノイ

5月に開催した雇用支援ツアー時の
面接の様子=ベトナム・ハノイ

鉄製品とは全く違う新たなビジネスのイメージが膨らんだ。ベトナムと日本の中小企業を橋渡しする雇用支援サービスだ。ベトナム人大卒生の面接などを行う会社「トクシントラスト」を立ち上げ、自社の実習生の働き具合や成果を紹介するセミナーを高松や大阪で開催。今年5月に企業の人事担当者をベトナムに案内するツアーを企画すると、造船会社や鉄工所など全国から13社が集まった。「このツアーで31人の内定が決まりました。面接に応募してきたベトナム人大卒生は1000人以上。日本で働きたい若者はたくさんいます」

小林さんの強みは、自社の人材受け入れで築いてきた、ベトナムトップクラスの有名大学との協力関係だ。「日本企業に紹介するのは、東大や京大の学生にも引けを取らない、いわゆるエリート。単なる従業員ではなく、将来は会社の幹部にもなれる人材です。彼らもやりがいのある仕事を求めて海を渡ってくるんです」
トクシングループ連携のベトナム現地  日本語学校。11月に開校予定

トクシングループ連携のベトナム現地
日本語学校。11月に開校予定

現地に日本語学校もつくった。今年11月に開校予定で、すでに100人程の入学が決まっている。「一番の課題はコミュニケーション。いくら優秀でもコミュニケーションがとれないと、能力が企業側に伝わらない。日本語だけでなく、ビジネスマナーなども教える予定です」

外国人労働者の就労を巡っては、日本人の雇用を守るなどの理由で「単純労働者は受け入れない」「大学教授や医師などの専門家や、技能実習生に限る」など様々な制限が長く設けられてきた。だが、国内の労働人口が減少する中、今後は貴重な働き手になると見られている。「来年春には制度が大幅に緩和される見通しです。そうなれば外国人受け入れの気運が一気に高まるのでは」と小林さんは先を見据える。

生きた証を残したい

実現したい未来を  いかにイメージするか

実現したい未来を
いかにイメージするか

高校卒業後、実家の小さな鉄工所を手伝っていたが、「家業は兄が継ぐことになっていたので、いつか独立するつもりでした」

09年、40歳の時にチャンスが巡ってきた。あるプラント工場の経営者が「高齢で引退するので、設備や従業員ごと引き継いでほしい」と言ってきた。「ありがたい話だ」と飛びついたが、不運にも時はリーマン・ショック。徐々に仕事は減り、数カ月後には運転資金も底をついた。事業の縮小、業種の転換などを図ったがうまくいかず、12人いた従業員は全員離れていった。「手元にはプレハブ小屋とボロボロのトラックが1台。どうしようかと途方に暮れました」

実家の鉄工所に戻ることは考えなかったのか。「それはなかった。振り出しに戻るだけなので。『自分の生きた証を残したい』。それだけを考えていました」

たった一人での再スタート。ペンキ塗りや溶接など小さな仕事をコツコツ続けた。すると、少しずつ仕事が増えていった。「あとから取引先に言われました。『暗い顔をして落ち込んでいたら、どうせ無理だろうと思って仕事は任せられなかった』と。明るく前向きにやっていれば何とかなるものです」

その後、鉄製の階段と手すり製造というニッチな分野に特化し、口コミで広がった取引先は120社。やがて中四国一のシェアを誇るまでに業績を伸ばした。「できないと思えばできないけれど、できると思えばできる。できると思えば、アンテナを張り、どう戦略立てていくかシミュレーションできる。大事なのは、実現したい未来をいかにイメージするかだと思う」。小林さんはこれまでの歩みを振り返りながら、熱い口調で語る。

社長5人で酒を飲みたい

最初の起業から10年足らずで、トクシンテクノ、トクシントラスト、トクシンベトナムなど5つの会社を立ち上げた。「銀行の担当者にもよく言われます。なぜそんなに次々と会社をつくるのかと」

将来、自分が育てた若き社長たちと酒を酌み交わすシーンを小林さんは想像する。「会社が一つならポジションは一つしかありませんから」。常務や専務といった幹部でも給料をもらう側で、社長とは違う。同じ立場じゃないと腹を割って話せない。

「どんな投資をし、どんな戦略でどんな事業を目指すのか。5人の社長でいつか経営論を戦わせたいですね」

篠原 正樹

小林 有二 | こばやし ゆうじ

1968年 善通寺市生まれ
1986年 多度津工業高校(当時)卒業
1989年 西日本工業大学 中退
    小林鉄工所 入社
2009年 現トクシンテクノ 設立
2014年 トクシントラスト 設立
2015年 トクシンスチール 設立
2016年 トクシンベトナム 設立
2017年 トクシンネット協同組合 設立

トクシングループ

住所
香川県多度郡多度津町西港町29番地4
代表電話番号
0877-85-5111
社員数
グループ計80人
グループ会社
株式会社トクシンテクノ(鉄製階段の設計・製造他)
株式会社トクシンスチール(手すりの設計・製造他)
有限会社トクシントラスト(ベトナム人採用支援)
トクシンネット協同組合(外国人実習生受入支援)
トクシンベトナム(建築金物設計・施工図作製)
地図
URL
http://tokusin.jp/
確認日
2018.10.04

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