2008年、本場で評価された自社ブランド「カプリガンティ」を、日本市場で展開するため、フラッグショップ「アルタクラステ・カプリガンティ」を六本木ヒルズに出店した。デザインや色、サイズを組み合わせるセミオーダーにも応じる、日本で数少ない高級手袋専門店だ。
東かがわ市の手袋製造販売会社ヨークス(株)は年商70億3000万円、世界ランク5位だという。「主な輸出先はフランスとイタリア。生産量の10%まで輸出が占めるようになりました。デザインも品質も、ヨーロッパの老舗ブランドに引けを取りません」
社長の吉田 勤さん(58)は、世界ランク3位を目指して「攻め」の経営を貫く。
※(カプリガンティ)
カプリ(島)のグァンテ(手袋)という意味のイタリア語。(アルタクラステ)アルタ(より高い)クラステ(クラス、レベル)という意味のイタリア語
※(70億3000万円)
2009年1月期
手間をかけた仕事
8人のデザイナーが、5000種類ある手袋の90%のデザインを毎年やり変えて、消費者ニーズに合う手袋を作る。
「革手袋以外にも、うちほど多品種のファッション手袋を手掛けているメーカーはありません」。まじめに手間をかけた仕事をお客さんは信頼してくれる。吉田さんは、父で会長の幸三さん(82)が、創業以来培ってきた職人気質の伝統に感謝し、誇りを持っている。
ピンチはチャンス
「問屋が直接生産したり、メーカーが小売りに乗り出したり、ボーダレスの競争になったのが原因です」
デパートや量販店向けのライセンスブランド生産やOEMで、80年代半ばファッション手袋で、ヨークスは全国シェア15%を占める業界トップになっていた。
ところが1998年、主力販売先の問屋が倒産した。「問屋に代わる販路を確保するには、直販体制を確立しないと生き残れない」と、札幌と東京に販売会社を立ち上げた。
「札幌は順調にいったんですが、肝心の東京がうまくいきません。ピンチに追い込まれて、不安と焦りでやめようかと思いました」
そのとき伊藤忠商事(株)から声が掛かった。「手袋を納めていた販売会社が、赤字でお荷物だというんです」
吉田さんは、ピンチをチャンスに変えた。2000年、伊藤忠の子会社(株)レヴァルの手袋を含む服飾雑貨部門を買収して、直販体制を一気に加速させた。「会社が生き残れたのは、時代の変化を読んだということでしょうか。有名ブランドのライセンス契約や、メーカーながら小売りを手掛けたのが功を奏したと思います」。静かに振り返る。
※(OEM)
他社ブランドの製品を製造すること。英語Original Equipment Manufacturingの略
「攻め」の経営
2000年ごろからイタリアやフランス製の革手袋がブームになって、デパートの売り上げが落ちてきた。
「本場ヨーロッパ市場で通用する手袋を作れば、日本でも勝てる」。吉田さんは、03年、イタリア・ナポリに「ヨークスSRL」を設立、手袋の素材革の仕入れ先に頼んで、技術を教えてくれる職人を探してもらった。
「中国に行ってもいいという変わり者の職人、ハンガリー人のジョセフ・キッシュさんがいたんです。奥さんもミシンを踏んで縫製するので、夫婦で昆山工場に来てもらいました。ラッキーでした」。04年、ヨーロッパ市場に挑戦する自社ブランド「カプリガンティ」を立ち上げた。
リスクを避けていたら「攻め」の経営はできないし、幸運にも恵まれない。先を読んでやるべきことを決めたら、ちゅうちょしない。吉田さんの信条だ。
※(SRL)
有限会社のこと。イタリア語Societa'a Responsabilita' Limitataの略
先へ進まないと負ける
技術はすぐまねされる。先へ、先へ進まないと競争に負ける。「自社ブランドを立ち上げたのも、六本木ヒルズへの出店も、そのためでもあるんです。ヨーロッパには手袋専門店が多い。日本でも、と思いましたが冬場以外は苦労しています」
デパートが豊富に品ぞろえすることや、手袋文化が違うので、専門店が少ないと吉田さんは分析する。常に市場を見る目だ。
ヨーロッパ市場へ売る
「それなら東欧より人件費の安い中国へ技術を移転させて、ヨーロッパ市場に通用するか試してみようと思ったんです」
「本場・老舗」のヨーロッパへ挑戦して、市場の成熟や人口減少で、衰退しはじめた日本の需要を輸出で取り戻す。「攻め」の戦略で吉田さんは世界ランクナンバースリーを、そしてナンバーワンを目指す。
手袋は季節商品だ。気候によって需要が大きく変動する。「3月ごろ前年の結果が分かります。5月ごろ、小売りから発注が来て、10月に納品できるスケジュールで工場を稼働させます」
問屋だけに小売りを頼っていたら、工場は5カ月間だけの稼働になる。残りの暇な期間をどうするか。「製造から販売まで一貫した取り組みが必要です。自社の販売部門がリスクをかけて売る商品を、5月から10月以外の閑散期に製造しないと、工場を遊ばせることになります」
いまブランドのライセンス契約は25ブランドある。ピーク時には、ユキ・トリイ、ピエール・カルダン、ミラ・ショーン、ジバンシィ、ダックスなど60ブランド以上のライセンス契約があって、年間の使用権料は数億円にもなっていた。
「他社のブランドに大金を使うより、自社ブランドの宣伝費に使ったほうがいい。自社ブランドが強くなれば、販売部門のリスクも少なくなるし、工場の稼働効率が良くなります」
吉田 勤 | よしだ つとむ
- 略歴
- 1952年 東かがわ市生まれ
1975年 慶應義塾大学経済学部卒業
(株)ダイエー入社
1981年 同社退社
吉田手袋(株)=現ヨークス(株)入社
1986年 常務取締役に就任
1998年 取締役副社長に就任
(株)シグナス代表取締役に就任
2001年 代表取締役社長に就任
2009年 (株)モンクレア代表取締役に就任
日本手袋工業組合副理事長に選任
ヨークス株式会社
- 住所
- 香川県東かがわ市湊609-2
- 代表電話番号
- 0879-25-5151
- 設立
- 1956年
- 社員数
- 130人(海外関連会社を含む従業員数1200人)
- 事業内容
- 手袋、ホームソックス、ニット製品、その他繊維製品、雑貨の製造及び販売
- 沿革
- 1952年 東かがわ市生まれ
1975年 慶應義塾大学経済学部卒業
(株)ダイエー入社
1981年 同社退社
吉田手袋(株)=現ヨークス(株)入社
1986年 常務取締役に就任
1998年 取締役副社長に就任
(株)シグナス代表取締役に就任
2001年 代表取締役社長に就任
2009年(株)モンクレア代表取締役に就任
日本手袋工業組合副理事長に選任 - 資本金
- 4600万円
- 地図
- URL
- http://www.yorks.co.jp
- 確認日
- 2010.05.07
おすすめ記事
-
2024.07.04
「電着塗装」武器に 100年目指しタクトを振る
四国塗装工業 社長 近澤 裕明 さん
-
2023.11.02
ものづくり支える「トータルエンジニアリング」
カワニシ 社長 川西 弘城さん
-
2023.10.05
「4欲」見逃さず たくさんの笑顔を紡ぐ
フクシン 社長 福﨑 二郎さん
-
2023.04.20
インフラ支える圧倒的な設備力と「和」
協拓建設 社長 福本 徹哉さん
-
2022.11.03
高品質ツーリングで “全てのものづくり”を支える
大東精工 社長 原田 一正さん
取締役 原田 康弘さん -
2022.10.20
カーボンニュートラルのビジネスチャンスを切り拓く
サンテック 社長 青木 大海さん
-
2022.10.06
技術力と発想力で “エジソン”のような会社に
四国計測工業 社長 寺井 昇二さん
-
2022.09.01
ものづくりの魅力 「産業観光」で次世代へ
川上板金工業所 社長 川上 正城さん
-
2022.07.07
“日進月歩”で科学技術を支える
日進機械 社長 常盤 朝一さん
-
2022.05.05
オンリーワンの技術で驚きと感動を
長峰製作所 社長 長峰 考志さん
-
2022.04.07
カーネーション愛で「喜び」を咲かせる
香花園 代表理事 真鍋 佳亮さん