香川をギュッと詰め込んだ邦坊デザイン
灸まん美術館学芸員 西谷 美紀
2019.08.01

太めの黒い線とエキセントリックなカラフルな色合いが目に飛び込みますが、さて何が描かれているのでしょうか。まず、画面中央のやや下にみえる箱型の建物。水平に延びる太い手すりの線や格子の窓が見えます。これは、香川県庁舎を表現しています。画面の左下には、栗林公園の太鼓橋。欄干の下には鯉が泳いでいます。隣には観音寺の寛永通宝、その右横には琴平の高灯籠らしきものがみえます。画面中央の両側に小さなお城があります。位置から判断すると西側(左側)は丸亀城。東側(右側)は高松城となります。赤、白、黒、緑、黄の山々は、色の組み合わせから推理すると五色台を描いていることがわかります。また、海の向こうに見える平たい山は屋島。瀬戸内海を周遊する船の向こうには紅葉が色づく島が浮かんでいます。これは、小豆島の寒霞渓をイメージすることができます。
香川県をPRするポスターですが文字情報は「香川KAGAWA」しかありません。香川を知らない人にとっては、デフォルメされた観光地は少し読み解きづらいデザインのように思えます。しかし、原色が躍動するような配色のおかげで見る人に「なんだこれ?」と思わせるインパクトを与え、読む広告ではなく見る広告としてポスターの効果を発揮しています。また、観光ポスターに香川県庁舎を描いている点も注目できます。昭和33年、丹下健三の設計で誕生した庁舎は今でこそアート県・香川の観光スポットとなっていますが、50年以上前から県外にPRできる場所として庁舎が描かれていることは、当時の観光ビジョンが先駆的なものであったといえるでしょう。おそらく時の香川県知事である金子正則の意向を反映して邦坊がデザインに取り入れているものですが、当時の香川県の観光に対する勢いなども想像することができます。
灸まん美術館学芸員 西谷 美紀
- 讃岐民芸館、四国村などを経て灸まん美術館学芸員。和田邦坊を研究。2019年4月に「和田邦坊デザイン探訪記・続編」を刊行。県内図書館などに献本し、灸まん美術館でも販売予定
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