コロナ禍を受けた今 企業のオンライン化を考える

ビジネス香川編集室

Special

2020.08.20

コロナ禍を機に、事業のオンライン化が進んだ。業務の大半をリモートに切り替えた企業では、オフィス不要論も取りざたされている。しかし、それは東京をはじめとした大都市や、大企業の話で、地方の中小企業では「コロナ禍が収束するまでの一時的な状態」と考える人も多い。

はたして“一時的なこと”と考えるべきか、将来を見すえた視点が必要なのか。地元企業のオンライン化について探った。

テレワークだけじゃない 何のためにオンライン化するのか

コロナ禍の影響で、在宅勤務などの働き方を指す「テレワーク」が注目され、「オンライン化=テレワーク」というイメージをもつ人も多い。しかし「テレワークを導入するだけがオンライン化ではない」というのは、専門機関と連携し地域企業のIT経営を支援しているNPO法人ITCかがわ会長・中庭正人さん。

オンライン化とは「インターネット等の回線を通じてつながることで、場所や距離に縛られず事業・業務が行える状態を指します。ただ企業の活動は個々に違うため、オンライン化の目的も手段も企業によって違います」。例えば、オンラインを生かして遠方の人とビジネスをする、顧客との新しい関係を構築する、仕事の効率を上げる、オンラインバスツアーのように新しいサービスを生み出すなど。

「オンライン化自体を目的としては意味がありませんが、社会の変化を積極的に取り込むことで、チャンスが広がると思います。今の仕事をそのままオンライン化するのではなく、目的から自分たちの業務を見直し、整理する。結果、生産性が上がるというのが理想的な姿だと思います」

社内業務の効率化で創造的な仕事につなげたい 樋口工業

上水道配水管、空調設備などの工事、住宅設備の施工などを手掛ける樋口工業には、技術をもつ従業員が在籍。それぞれが1日何件も現場を訪れ、時には各自で資材を仕入れ施工を行う。

誰がどこの現場に何時間いて、どの資材でどんな作業をしたかを把握し請求書発行、給与計算、売上管理……。「入力作業は主に自分でしていて、なんとか効率化できないかと数十年前から様々なソフトを使い自力で試行錯誤してきました。それでついに作業量もデータ量も限界に。でも事務スタッフを増やす余裕はないし」と代表取締役の樋口隆仁さんは振り返る。

そこで専門家に相談して、自社に合わせてデータベースを構築できる「FileMaker(ファイルメーカー)」を導入し、社内サーバーにデータを蓄積。1日の労務日報の入力時間も短縮され、入力さえしておけば売上、粗利、見積、請求書、給与計算、過去に手掛けた現場の地図、作業内容、現場写真などの情報がひもづけされ一括管理できるようになった。

業務管理、財務それぞれ担当がいて別のソフトを使うという会社も多い。「きっと重複する作業もあるだろうし、毎月人件費がかかる。そう考えると、導入に400万円ほどかかりましたが高いコストではない。小さい会社ほどIT化は必要だと思います」。事務スタッフは1人、フレックスタイム制で仕事をしているが、スムーズに業務が進められている。

一方で、従業員とは仕事後に事務所に帰ってきたときや、給与を直接渡す際に積極的にコミュニケーションをとる。今後は、一人ひとりの仕事内容を見える化できるようアウトプットして、給与支給日に仕事の状況や今後の展開など発展的な話をしていきたいという。

「経営者は管理だけではなく、営業的なことや新たな事業について考えるのが一番の仕事。その時間ができたことが大きい」。現在、会計士や社労士といった外部協力者とも必要な情報をサーバーで共有し、1カ月待たなくても売り上げ状況が随時わかるようにするなど、データベースを構築中。「きっと同じ悩みをもつ中小事業者は多いと思うので、データベースソフトを活用しての社内情報管理のOA化・IT化を普及したい」という。
HP=https://www.hkhyperworks.com/

オンライン化で子育て中も働ける場を

樋口工業では、社内の業務を効率化・オンライン化したことで優秀な人材確保にもつながった。事務スタッフの瀬田綾子さんは、IT系の企業で働いていた経験もある。夫の仕事の都合で香川にきたが、子育て中のため朝から夕方まで定時の勤務は難しかったという。そこ
へ、樋口社長から声を掛けられて現在の職場に。
 
「勤務は基本的に、朝から子どもをお迎えに行く時間まで。子どもが熱を出したときや、幼稚園が早く終わるときも慌てなくてすむこの働き方は本当にありがたい」。コロナ禍で幼稚園が休園になったときも対応できた。夏休みや、今年の長い春休みにも子どもたちと一緒に出社し、様子をみながらオフィスで業務をこなした。

テレワークでは勤怠管理が難しいことが、よく問題になる。「決まった時間会社にいる=働いているということではなく、仕事量や内容でも評価できるようになればいいと思うんですが……」。瀬田さんの場合、時には家から会社のサーバーにアクセスしながら、十分に仕事をこなせるよう工夫している。また、データベース構築について改良点を提案することもあるという。

「スキルや能力があるのに働く場がない人は、地方に多いと思います。そんな人材を生かせるようなオンライン化も進めばいいと思っています」

顧客との新たなコミュニケーションを模索 旭屋

コロナ禍で大きな打撃を受けた飲食業。「私たち旭屋も一時はテイクアウトのみに絞って営業していましたが、夏場は難しい。今後も売上が下がることを見越して、新しいことに挑戦しなければと模索していました」とオーナー・木内千恵美さん。

フレンチ&イタリアン、ワインを楽しめる同店は、以前からワイン愛好家のすそ野を広げるためワインセミナーを開いていた。それをオンラインで発信する事業を始めた。特徴的なのは、ただ講義をするだけではなく、セミナーで取り上げるワインとテキストを事前に販売し、自宅でテイスティングしながら授業をする点だ。そのため「期限付酒類小売業免許」も取得した。講師はシニアソムリエのオーナーと、ソムリエのスタッフが務める予定だ。

初めての開催となるセミナーには7人が参加。ワインのあけ方を体験しながらグラスの形、地域のブドウ品種のことなどを説明する45分の授業をした。参加者からは「今まで白ワインしか飲んでいなかったが、今度は赤も試したい」「好みのワインの入荷状況をお知らせしてもらえるサービスがほしい」などの感想があがった。

参加者の中には来店したことがない人もおり、常連客とのコミュニケーションだけではなく新規顧客開拓にもつなげたいという。「多くの方が来店していただいていた時期は、一人ひとりのお客様とじっくりコミュニケーションする時間があまりなかった。今までのことを見直す時間ができたので、お客様の声をしっかり聞いて見つかった課題を次に生かしたい」

一次的な対応ではなく将来を見すえて

香川県よろず支援拠点の専門家でITコーディネータの水本規代さんは、コロナ禍を機に「オンラインビジネス」に関する相談件数が増えたと感じている。「オンラインセミナー、動画配信、ECサイト構築など、関心の高さを感じます」

とはいえ、熱心なのはまだ一部。在宅勤務を実施したものの、緊急事態宣言の解除後は通常の勤務体制に戻している企業も多い。コロナ禍収束まで一時的に乗り切れれば、というのが全体的な傾向だ。しかし水本さんは、地方の企業にとってITを活用し、オンラインビジネスに取り組むことで、事業を発展させるチャンスは十分あると考えている。

以前から、都市部への一極集中や地方の人口減少を背景に、地方に仕事や人材を分散させることと、働き方改革を目指して国はテレワークを進めてきた。なかなか進まなかったが、コロナ禍で急激に進んでいる。「今は都市部が注目されていますが、いずれ地方にもその流れはやってくる。その時のためにコロナ対策だけでなく、将来を見すえた取り組みが必要」。県外の仕事を受注する、優秀な人材を確保するためには、オンラインビジネスへの展開は欠かせないという。

ただし、進めるポイントは組織の成熟度に合わせて段階的に。社内の課題や目的をはっきりさせないまま一気に進めてしまうと、導入したシステムが使いづらい、無駄なコストがかかるなど、企業にとってマイナスになってしまう。

また「IT導入の前に、すぐに自分たちでできることもある」という。在庫管理をIT化したいなら、まず棚を整理整頓してどこに何があるかわかるようにする。テレワークを進めたいなら、紙の資料を電子化しどこからでも資料を確認できるようにする。

「取り組み方がわからなければ、公的機関を通じて専門家に相談してほしい。無料ツールの活用なども一つの方法です。業種、規模を問わずとにかく一歩、前向きに進んでほしいと思います」

取材を終えて

大都市のようなオンライン化が地方でも進めば、どこででも自由に仕事ができ、時間も有効に使えるからいいと気楽に思っていた。しかし、そんな単純な話ではなかった。

コロナ禍で経営が苦しくなり、経営者は今まで以上に無駄を排除、効率化にシビアになる。つまり、自分の存在価値を見出せないと居場所がなくなるかもしれない。コロナ禍を経て、今後について考えないといけないのは経営者だけではなく従業員も同じだ。

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