オンリーワンの技術で驚きと感動を

長峰製作所 社長 長峰 考志さん

Interview

2022.05.05

建設が進む「R&Dセンター」。一酸化炭素の完全酸化、酸性ガスの中和、吸収、 脱臭などに使われる「ハニカム触媒」を手に=まんのう町岸上の長峰製作所

建設が進む「R&Dセンター」。一酸化炭素の完全酸化、酸性ガスの中和、吸収、
脱臭などに使われる「ハニカム触媒」を手に=まんのう町岸上の長峰製作所

“ミクロの世界”で逆転

スマートフォンやパソコン、デジタルカメラなどの電子機器や自動車部品は日々、小型化、精密化していく。それらの電子基盤に極小のICチップなどを取りつける実装装置の「吸着ノズル」には、さらに精密さが求められる。ノズルの先の直径は最小5㎛(1㎛は0.001㎜)。まさに“ミクロの世界”を舞台に、世界一のノズルメーカーとして活躍するのが長峰製作所だ。

社長の長峰考志さん(53)は「二番煎じはやらない。常に新しい“オンリーワン”を追求しています」と力を込める。
産業機械の実装装置に使用される吸着ノズル

産業機械の実装装置に使用される吸着ノズル

吸着ノズルはこれまで金属製が一般的だったが、摩耗するのが難点だった。そこで長峰製作所が目を付けたのが「セラミックス」。“人工ダイヤモンド”と呼ばれる強固なジルコニアなどから成る材料で、どこのノズルメーカーも採用していなかった。

2000年、「セラミックス製ノズル」の開発に世界で初めて成功。強度や耐久性は金属製の5倍以上で、「大手電子機器メーカーからの受注を独占でき、我が社の『逆転満塁ホームラン』になりました」

“逆転満塁ホームラン”。長峰さんがセラミックス製ノズルの誕生をこう表現するのには訳がある。当時、長峰製作所の経営状態は決して良くはなかった。「社長だった父は『もう会社を畳もうか』と。でも多額の借金もあり、やめたくてもやめられない。そこまで追い詰められていました」

悪い時こそ前を向いて

創業は1911(明治44)年。長峰さんの曽祖父が鋳物用の木型製造を始め、その後、農機具や工業製品の金型製造など業態を変えながら111年の歴史を刻む。

1996年、長峰さんは大手自動車メーカーに勤めていたが、父・勝さんから「帰ってきて手伝ってくれ」と懇願され帰郷。だが、いざ入社してみると「とんでもない状況でした」

当時の主力は工業製品の金型づくりだったが、「お客さんからの注文を待つ下請けなので、売上は相手次第。資金繰りは苦しく、工場は散らかり放題で、社員も疲弊していて……」

量産できるものをつくり、“受注型”から脱却しないと会社は立ち直れない。金型の設計、開発から営業まで、「手当たり次第、何でもやりました。あの時の苦しさを思うと、どんなことでも乗り切れる気がします」
精密セラミックス製品を マイクロスコープを使って検品するスタッフ

精密セラミックス製品を
マイクロスコープを使って検品するスタッフ

そして、新たに磨いたのがミクロ領域での精密加工技術だった。どこにも真似のできない「吸着ノズルのセラミックス化」で、会社は息を吹き返した。

長峰さんの信条は「人生、山もあれば谷もある。悪い時こそ前を向いてポジティブに」

09年はリーマン・ショックでIT関連の受注がストップ。売上は半減し、会社は一時“週休業5日”状態に。「金融機関に集まってもらい『返済を一旦止めてほしい』と頭を下げました」。11年の東日本大震災でもサプライチェーンが寸断され、赤字に転落した。だが、長峰さんは決してうつむかず、数々のピンチを“オンリーワン”のモノづくりでチャンスに変えていった。
「ハニカム触媒」と新製品の「ハニカムペレット」

「ハニカム触媒」と新製品の「ハニカムペレット」

主力製品の一つに「ハニカム触媒」がある。セラミックスや金属などにミクロ単位のハニカム構造(ハチの巣状)の穴をあけ、車の排気ガスや石油ストーブから出る有害物質を吸収・浄化して無害化させる。ディーゼル車などのNOx(窒素酸化物)規制に合致し、首都高速のトンネル排気システムに採用されるなど、環境志向の時代の流れにも乗った。

また、新たに「企業秘密なので多くは語れませんが」、ガソリンエンジン用の画期的な触媒「ハニカムペレット」を独自開発し、「大手自動車メーカーとの取引も決まり、柱となる製品に育ちつつあります」
27歳で帰郷した時、「話が違う」と父に腹を立てたこともあった。でも、「ここまでやってこられたのは他社より長けていた、父の築いた『金型技術』のおかげ。受け継がれてきた技術には感謝の気持ちでいっぱいです」。紆余曲折を振り返りながら、長峰さんはしみじみと語る。

アンテナを張り巡らせて

本社の隣では8月からの稼働を目指し、「R&Dセンター」の建設が進む。脱炭素や医療などの新分野で、次の事業の柱を生み出す研究開発拠点になる。「10年先を見据え、タネをたくさんまいておこうと思っています」

社員には「常にチャレンジ。日々向上」と繰り返す。

最近は、自分の意見を持たず、答えを待つ社員も多いという。

「失敗してもいい。会社を取り巻く世の中のスピードは速い。速くチャレンジして、速く失敗すればいい。要は“善は急げ”です。失敗が速ければ取り返しもつきます」

掲げる合言葉は「驚きと感動のモノづくり」。会社が今後どうなっていくのか、「いつも不安」と話しながらも、「だからこそ、次のトレンドは何なのか、アンテナを張り巡らせ、オンリーワンの技術力をさらに磨いていこうと思っています」

篠原 正樹

長峰 考志 | ながみね たかし

略歴
1969年 満濃町(当時)出身
1987年 善通寺第一高校 卒業
1991年 広島工業大学機械工学科 卒業
     三菱自動車工業 入社
1996年 長峰製作所 入社
2009年 MBA(経営学修士)取得
     代表取締役

株式会社 長峰製作所

住所
香川県仲多度郡まんのう町岸上1725-26
代表電話番号
0877-75-0007
設立
1968年
社員数
90人
沿革
1911年 1月 大阪市で故長峰松之助が木型工場として設立

1942年 4月 香川県仲多度郡満濃町四条に移転

1968年 11月 有限会社長峰製作所設立

1981年 7月 株式会社長峰製作所に組織変更

1985年 4月 現在地に工場新築移転
事業内容
・金型の設計、加工、組立

・精密セラミックス製品の製造、販売

・ハニカム触媒・吸収剤の製造、販売

・特殊プレス部品の製造、販売
資本金
1億円
地図
URL
http://www.nagamine-manu.co.jp
確認日
2022.05.05

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