こんな風に、人によって思い浮かべるイメージが様々なのも、猪熊弦一郎らしいところ。一つの表現に固執せず、新しいものや考え方に心を開いて、自分なりの「新しい美」を生み出そうと挑戦し続けることで、画風がどんどん変わっていったのです。
現在、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催中の常設展示では、猪熊が「人物」をモチーフに描いた作品をご紹介していますが、これもまた、前述のどれともタイプが異なります。
東京美術学校に通っていた画学生時代の作品《母の像》は、手仕事をする母親の姿を横からとらえています。傍らに置かれたコーヒーカップや、斜めに差し込む柔らかな光からは、ゆったりした時間の流れと彼女のおだやかな人柄が感じられます。初々しい写実表現ではありますが、モデルの外見をただなぞるだけではなく、状況を描くことで、モデルの性格や生き方もあらわそうと工夫していることがうかがえます。
このように、たとえ同じモチーフでも、描いた場所や時代によって画風がまるで違うのが猪熊流。
それぞれの絵を観賞するとともに、一人の画家が描いたとは思えない画風の変化もお楽しみください。
常設展「猪熊弦一郎展 人物像」
【ところ】丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(丸亀市浜町80-1)
【観覧料】一般300円、大学生200円、高校生以下または18歳未満・
丸亀市内在住の65歳以上・各種障害者手帳をお持ちの方は無料
※同時開催企画展「荒木経惟 私、写真。」観覧料は別途
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 学芸員 古野 華奈子
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丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 学芸員 古野 華奈子
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