猪熊弦一郎の「人物像」

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 学芸員 古野 華奈子

column

2018.02.01

猪熊弦一郎《母の像》1924年©公益財団法人ミモカ美術振興財団

猪熊弦一郎《母の像》1924年©公益財団法人ミモカ美術振興財団

猪熊弦一郎という名前、香川県民であれば、ほとんどの方が一度は見聞きしているでしょうし、彼が香川出身の画家だということもご存知だと思います。では、その画家が描いた絵といえば、どんなものを思い浮かべるでしょうか。丸や四角、不可思議な形が色とりどりに描かれた明るい「抽象画」。丸に目鼻を入れただけのシンプルな「顔」が碁盤の目状にずらっと並んだ絵。イヤイヤ、猪熊さんといえば「猫」の画家でしょ、と言う方もいるかもしれません。

こんな風に、人によって思い浮かべるイメージが様々なのも、猪熊弦一郎らしいところ。一つの表現に固執せず、新しいものや考え方に心を開いて、自分なりの「新しい美」を生み出そうと挑戦し続けることで、画風がどんどん変わっていったのです。

現在、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で開催中の常設展示では、猪熊が「人物」をモチーフに描いた作品をご紹介していますが、これもまた、前述のどれともタイプが異なります。

東京美術学校に通っていた画学生時代の作品《母の像》は、手仕事をする母親の姿を横からとらえています。傍らに置かれたコーヒーカップや、斜めに差し込む柔らかな光からは、ゆったりした時間の流れと彼女のおだやかな人柄が感じられます。初々しい写実表現ではありますが、モデルの外見をただなぞるだけではなく、状況を描くことで、モデルの性格や生き方もあらわそうと工夫していることがうかがえます。
猪熊弦一郎《アンブレラの女》1938年 ©公益財団法人ミモカ美術振興財団

猪熊弦一郎《アンブレラの女》1938年
©公益財団法人ミモカ美術振興財団

30代半ばに描いたフランス遊学時代の作品《アンブレラの女》では、人物も背景も、見たままには写していません。しかし、簡略化した輪郭線や色彩からは、ファッショナブルなパリの街角の様子がストレートに伝わってきます。一見、ラフにシンプルに描いているようですが、よく見ると、中央の女性が着ているコートのピンと立った襟や洋服の上から締めた腕時計、細いベルト、また左の女性のジャケットの羽織り方やバッグの持ち方など、対象を細かく観察して、ちょっとした仕草や小物を効果的に取り入れるなど、絵の細部に気を配っていることに気付かされます。

このように、たとえ同じモチーフでも、描いた場所や時代によって画風がまるで違うのが猪熊流。

それぞれの絵を観賞するとともに、一人の画家が描いたとは思えない画風の変化もお楽しみください。

常設展「猪熊弦一郎展 人物像」

【と き】3月25日(日)まで ※会期中無休
【ところ】丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(丸亀市浜町80-1)
【観覧料】一般300円、大学生200円、高校生以下または18歳未満・
     丸亀市内在住の65歳以上・各種障害者手帳をお持ちの方は無料
     ※同時開催企画展「荒木経惟 私、写真。」観覧料は別途

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 学芸員 古野 華奈子

写真
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 学芸員 古野 華奈子

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 学芸員 古野 華奈子

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ