働き方改革とDX化で “豊かさ”をつなぐ

朝日通商 社長 後藤 耕司さん

Interview

2022.03.03

高松市国分寺町新名の朝日通商

高松市国分寺町新名の朝日通商

「リレー」と「シャトル」を選択

運送会社はドライバーの長時間労働や人手不足に慢性的に悩まされている。だが、画期的な手法でドライバーを定着させ、業界の注目を集めているのが朝日通商だ。取り入れているのは「働き方を選べる仕組み」。後藤耕司社長(61)は「年間の時間外労働の上限が960時間に制限される『物流の2024年問題』もクリアできている」と胸を張る。

四国を中心に全国11の拠点を構え物流を担う朝日通商。きっかけは3年程前、新卒ドライバーを募ろうと、ある高校を訪ねた時のこと。高校生が就職先を選ぶ条件が「年間休日100日以上」「屋根の下で働ける」「残業はしたくない」だった。「ショックでした。全部当てはまらないんですから……」

遠方へ荷物を運ぶと3~4日は家に帰れず車中泊。サービスエリアで顔を洗って歯を磨く……。後藤さん自身、「それをやらせているのは経営者。申し訳ないという罪悪感もありました」と打ち明ける。「これではダメだ。魅力的な業界に変えていくのが経営者の使命」と働き方改革に着手。導入したのが「リレー輸送」と「シャトル便」だ。

四国-関東ルートは「リレー輸送」。夜7時頃、四国のドライバーAと、静岡のグループ会社のドライバーBがそれぞれ荷物を積んで同時に出発。12時頃に中間地点の滋賀で落ち合い、トラックを交換。Aは香川に戻り、朝出勤してきたドライバーCにバトンタッチ。関東から届いた荷物をCが四国の各地に届けて回る。一方、滋賀から静岡に引き返したBは、静岡で待つDとリレー。同様に、四国からの荷物をDが関東各地に届けて回る。「荷物を4人で運ぶやり方です。これだと勤務時間が大幅に短縮され、全員が毎日家に帰れます」

四国-関西ルートは「シャトル便」。これまでは1人のドライバーが2日かけて1往復していたが、取引先と積み込み時間や納品条件を事前に調整することで、1日で往復できるようにした。2日かけるよりも運べる荷物の量が倍増し、ドライバーの賃金アップにも繋がった。

希望する収入や勤務形態に合わせてドライバー自身が選ぶ「リレー輸送」と「シャトル便」で業績も好調。「リレー輸送は、中継ポイントを増やせば全国への展開も応用可能です」

「配車」の苦労をDXで軽減

3年程前からDX(デジタルトランスフォーメーション)化に力を入れる。デジタル技術を駆使し、より効率的な業務を実現しようというものだ。「人間が苦労してやっていることを、何とかデジタルでカバーできればと思っているんです」

苦労する業務の一つが「配車」。今は十数名で担当しているが、「ドライバーの割り振り、お客さんのクレーム対応、社内からは『効率が悪いと赤字になる』と詰められて……。配車業務は精神的にも負担の大きい仕事なんです」

ITを使えば在宅でのリモートワークで効率化できるのでは、と提案すると「コピー機もFAXもないのにできるわけがない」と社内からは猛反発。だが、コロナ禍で風向きが変わった。受注、配車、運行指示などをデータ化して取りまとめる新たなシステムを、現在「デジタル実験室」で開発中だ。「配車担当を2人位に減らして、空いた人と時間は、ドライバーやお客さんとのコミュニケーションにあてられればと思っています」

エンゲージメントを育む

「瀬戸内グローカルラボ」の様子

「瀬戸内グローカルラボ」の様子

地元の中小企業をサポートするビジネスコミュニティ「瀬戸内グローカルラボ」を主催している。

食品メーカーなど60社以上が参加し、定期的に会合を開催。海外への販路拡大の手法などを話し合い、香港への販売ルートを開拓した実績も。「今後はシンガポールやマレーシアへも広げていきたい。地域商社的な役割を担い、地元経済の発展に貢献できればと思っています」
上司と部下をつなぐ日報 スマホでも閲覧できる

上司と部下をつなぐ日報
スマホでも閲覧できる

創業した父からバトンを受けて15余年。会社を続けていくために、社員のエンゲージメント(愛着心)を育むことにずっと心を砕いてきた。「何より大切なのはコミュニケーションです」

DX化に合わせて日報もデジタルに。クラウド型のチャットツールを活用し、業務内容に加え、「お客さんや仲間が喜んでくれたこと」や「一日の気づき」を上司と部下で毎日やりとりする。「会社は単なる“仲良しクラブ”ではいけません。厳しくもあり面倒見も良い。『よくやった』とただ褒めるのではなく、お互いを認め合う。そんな上司・部下の信頼関係が生まれつつあります」。“デジタル日報”は全スタッフに公開されている。「『こんな苦労があるんだ』と、他部署への理解や興味も芽生えてきましたね」と相乗効果に目を細める。
「物流は社会の基本中の基本。空気や水と同じくらい大事なものだと思っています」

ただ“モノを運ぶ”仕事ではない。“豊かさをつなぐ”仕事だ。それが後藤さんの信条であり、プライドでもある。「何のために仕事をするのか。働く意味を理解し、『きょうもやり遂げた』とみんなが日々実感できるような社風を育てていきたいですね」

篠原 正樹

後藤 耕司 | ごとう こうじ

略歴
1960年 高松市出身
1979年 高松高校 卒業
     明治大学を中退後、
     建材・化学工業品製造会社勤務を経て
1991年 株式会社朝日通商 入社
2006年 代表取締役社長

株式会社朝日通商

住所
香川県高松市国分寺町新名1566-1
代表電話番号
087-874-6115
設立
1970年(有限会社朝日通商)
社員数
301人(2023年)
事業内容
一般貨物自動車運送事業
3PL事業
貨物運送取扱事業
倉庫並びに貸倉庫業
引越運送及び付帯作業並びにそれらに関する取扱事業
産業廃棄物・一般廃棄物の収集運搬業
物流センターの管理運営及び物流情報の収集処理事業
物品の仕分け、梱包及び発送業務の請負業
機械並びに車輌の賃貸業
各種自動車並びに同部品類の販売
不動産の売買・仲介並びに賃貸業
ものづくり事業
作業請負事業
貿易代行事業
販売事業
一般建設業
関連会社
大川陸運株式会社
村上運輸倉庫株式会社
地図
URL
https://asahitsuushou.co.jp/
確認日
2024.03.21

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