しかし、七十二候の中で、唯一カレンダーに明記されているものがあります。それが「半夏生」です。半夏生は、夏至から数えて11日目、太陽暦では7月2日ごろとされています。
半夏生は農業にとって大切な節目で、稲作では田植えを終わらせなくてはならない日とされています。現代では農業が機械化されているため、この日をゴールに田植えを終わらせる切迫感を感じることはありませんが、田植えのすべてを人手で行っていた昭和初期までは、その労力たるや想像を絶するものだったでしょう。
また、当時の香川県では米と麦の二毛作が行われていたので、麦が熟れる5月末の「麦秋至」から、「半夏生」までの約1カ月で、麦刈りを終え、水田の準備、田植えと、膨大な農作業をこなさねばなりませんでした。
さらに、香川県は水が乏しく限りある農業用水を有効に使う必要があるため、水源をため池に依存しているエリアにおいては、夏至を迎える頃に、ため池から一気に水が供給され、一斉に田植えが開始されました。田植えに使える期間は、わずか10日程度だったのです。
秋の実りを得るためには、もちろん日照量や降雨は必要なのですが、それ以前に、田植えを期限までに終わらせるという「人事を尽くす」ことにかけた労力は並大抵のものではなかったでしょう。
「半夏生」は、食糧生産における大きな節目の日であり、カレンダーに残る「半夏生」の3文字に、この日にかけてきた先人の努力の跡を垣間見ることができます。
【豆知識】はげだんご(半夏団子)
正月や節句などの食文化は数多く残っていますが、一年のうちで七十二候にまつわる食文化が数多く残る日は、半夏生を除いて他にはありません。塩味の効いたうどんと、酸味の効いた酢の物、そして甘い団子と、一つ一つの料理はシンプルなのですが、味のバリエーションは多彩であり、田植えで疲れた体を労い、夏に向けて束の間の休息を楽しむ料理です。
野菜ソムリエ 上級プロ 末原 俊幸さん
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