オフィスが変わると 会社の業績が上がる?
ビジネス香川編集室
社会のニーズや時代の変化に対応できないと、企業は成り立たない。しかし今、働き方改革に人手不足、環境配慮、地域貢献・・・企業は考えなければならないことが山積みだ。それらの課題を解決するきっかけとして、「クリエイティブ・オフィス」の考え方が注目されている。
創造性を高めてくれる場 クリエイティブ・オフィス
クリエイティブ・オフィスとは、社員の創造性が最大限に発揮できるようなオフィスのこと。その始まりは1986年に通商産業省(現・経済産業省)が打ち出した「ニューオフィス」にさかのぼる。オフィスを快適かつ機能的なものにという考え方を提言し、87年には「ニューオフィス推進協議会(NOPA)」を設立。88年からは創意工夫したオフィスを表彰する「日経ニューオフィス賞」が実施され、現在まで続いている。
クリエイティブ・オフィスという考え方が登場したのは2007年の経済産業省の提言。少子高齢化で国内の市場が縮小する中、国際的に競争力をつけるには今までにない商品やサービスを生み出す必要がある。そのため、オフィスは快適で機能的なだけではなく、創造性を育てる場であるべき、という考え方だ。
「クリエイティブ・オフィスが注目されているのは、働き方の多様化や環境問題への対応など社会が企業に求めるニーズが変わってきたことも背景にある」というのは四国経済産業局製造産業課長・岡本昭義さん。最近は、環境への配慮、地域貢献などを打ち出す企業も増えている。
プロセスも重要
アイデアや創造を生むには、仕掛けが必要だ。創造活動を促す行動として「歩く」「見る」「話す」などがあるといわれている。それらの行動が自然にできる空間が、クリエイティブ・オフィスの特徴である。例えば、部署間の仕切りがないフロア、立ち話がしやすいスペース、ガラス張りの会議室、フリーアドレスなど。ただ、「キレイなオフィスを作るだけでは意味がない。そこにいたるまでのプロセスが重要」と香川大学教育学部教授・宮崎英一さんはいう。「経営者が方向性を示し、社員が全員で意識を共有する。その過程が働き方の変革につながります」
どんなメリットがあるか
オフィスを変えると業績が上がるのか-に答える数値的なデータはない。ただメリットとして指摘されているのが、コミュニケーションの活性化。違う経験や専門を持つ人たちとのコミュニケーションから、開発の気運や新しいビジネスモデルが生まれる。すぐ話し合える雰囲気があるため、課題解決や意思決定が早い。また、オフィスづくりに参加した社員の意欲が上がる。社外に対して製品や会社の事業をオープンにすることで優秀な人材確保につながる。地域貢献で会社のブランド力が上がるなどのメリットもある。
これらが、結果として業績向上につながる可能性はある。オフィスを完成させることが目的ではなく、どう活用していくかが経営者にも社員にも問われる。
CASE1 100年企業に向けて水のように柔軟に変わり続ける フソウ フソウテクノセンター
部署ごとの机の配置をやめ、机の間をぬうように
通る通路など、自然に会話が始まる工夫を施す
上下水道施設の設計・施工・維持管理、資機材の販売、鋼板製異形管の製造など、水インフラ事業全般を手掛ける同社は、創業70周年を迎えた2016年、次世代の拠点となる施設建設を計画。経営陣と、社員、建築チームの3者が一体となりプロジェクトが始まった。まず上がったのが「集約」というキーワード。仕切りのない広々とした執務室を計画し、市内各所に点在していた部署を集約、コミュニケーションの活性化を目指した。
コミュニケーションスペース。
何気ない会話からアイデアが
「以前は他部署の人と話をする機会はあまりなかった。今は、必要があればすぐ相談してアイデアが出し合える。業務のスピードも速くなりました」と技術本部係長・相谷明宏さんはいう。「見て入って楽しめるオープンなオフィス」も特徴だ。1階の研究室はガラス張りにして見学も受け入れている。
食堂は地域の人の憩いの場だ
また、食堂や体育館を地域の人に開放。体育館は災害時に避難所として利用するほか、非常用発電機や耐震性貯水槽も設けている。「今あるオフィスは完成形じゃないと思っています。時代に合わせて“水のように柔軟に変わり続ける企業”を目指します」
CASE2 フレキシブルな空間で能動的な働き方に 今治大成保温
各部署を集約したワンルーム。右側は社員が作り上げた
本棚。昼と夜で色を変える照明も特徴
高い離職率や人手不足に悩む建設業界で、空調・給排水の断熱施工、板金、ビル保温などを手がける同社が目指したのは、職人たちが自分たちの会社を誇れるようにすること。社員の意識を変えるため「11m×2.7mの本棚を社員で作り上げるなど、新しいオフィスづくりを“自分ごと”だと思ってもらえるようにしました」と建築設計部・長谷部久人さんはいう。
ガラスの框戸を開ければ応接室と打合せ室で話ができる
特徴は、フリーアドレスを採用し、事務室・応接室・打ち合わせ室をワンルームにしたこと。広い空間に2ヵ所設けられたガラス框戸(かまちど)を」開閉して広さを変えることで、人数や目的に合わせて柔軟な使い方ができる。「部署を超え、内容に応じて必要な相手の近くに座って仕事するなど、社員が能動的に空間を利用するようになりました」。ラボスペースを使って先輩が後輩に技術を教える姿も見られるようになったという。
自分たちで断熱や防音・バルコニー施工を手掛けた。
技術力のアピールにも
オフィスを変えてから、職人、事務職とも若い人材が集まってきた。人材育成が進み、新事業進出に向けて動き始めている。