統計学の基礎シリーズ第3弾
「偏差値で学力は測れない」はやはり正しかった?

学習塾経営者、ビジネス数学インストラクター 大沼宏和

Research

2022.01.20

前回の記事では、「データの散らばり具合」を端的に表す「分散」や「標準偏差」をご紹介しました。さて、この「標準偏差」は実社会の中でどのように生かされているのでしょうか。

自然界にも実生活にも現れる「正規分布」

文科省が発表した令和2年度17歳男子の身長の分布表(※1)をグラフにすると、比較的きれいな山型になります(図1)。左右対称できれいな山型の分布を「正規分布」といいますが、図1はそれに非常に近い形をしています。

正規分布はさまざまな場面で現れます。自然界ではもちろんですが、例えば、あるお菓子メーカーが内容量100gのお菓子を製造する際、工場にどれだけ精密な機械があったとしても、100gちょうどを毎回作ることはできません。どうしてもわずかなズレが生じ、それをグラフ化すると100gを中心としたきれいな「山」、すなわち正規分布に近づきます。

※1
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00400002&tstat=000001011648&cycle=0&tclass1=000001156246&tclass2=000001156247&tclass3val=0

標準偏差がわかれば全体が見える?

このような正規分布と、前回お話しした「データの散らばり具合」の指標の一つである標準偏差には、一体どのような関係があるのでしょうか。

実は、正規分布の真ん中(平均値)から左右に標準偏差1つ分の範囲には、必ず全体の約2/3のデータが集まります(厳密には約68.3%)(図2)。標準偏差2つ分にまで範囲を広げると、およそ95%のデータがその中に含まれます。

先ほどの17歳男子の身長のデータは、平均170.5cm、標準偏差5.82でした。もしこの分布が正規分布だとすると、わざわざ全国の17歳男子を並べなくても約2/3は170.5±5.82cmの中におさまっているといえるのです。

一つ一つの数値を信じすぎない

これまで実に多くの人を苦しめてきた(笑)、いわゆる「偏差値」ですが、実はこれも正規分布の話なのです。簡単に言えば、偏差値とは平均50、標準偏差10の正規分布の状態をいい、全体の約2/3は50±10、すなわち40から60の間にいることを表しています(図3)。

そんな偏差値ですが、「偏差値=大学受験」という方程式が成り立つぐらい受験と結びつきが強いものだと思われています。しかし、偏差値はあくまで正規分布が大前提です。

例えば2018~2020年のセンター試験「世界史B」という科目の得点分布(※2)は、お世辞にも正規分布とは言い難い形をしています(図4)。これでは偏差値が表す意味は薄れ、正しく学力を測れているとは言えません。そしてこのようなことは割とよくあるのです。

※2
https://dn-sundai.benesse.ne.jp/dn/dn2020/doukou/dl/2020-dn-gaikyo-05.pdf

これまで3回にわたり「統計学の基礎シリーズ」としてお送りしてきましたが、第1回の「平均値」や「中央値」、第2回の「分散」、第3回の「偏差値」などはすべて、そのデータをある方向から見たときの「見え方」にすぎません。

「平均値」も「偏差値」も、それ単体ではやはり「参考程度」のものなのです。それがすべてを表すのではなく、他の指標をみたりグラフをみたりして、全体像をイメージすることがやはり重要です。

大沼 宏和|おおぬま ひろかず

略歴
1982年 青森県生まれ
2001年 高松高校 卒業
2005年 神戸大学工学部 卒業
2007年 神戸大学大学院自然科学研究科 修了
香川県の予備校勤務を経て
2016年 HOP 設立
写真
大沼 宏和|おおぬま ひろかず

将来展望型学習塾HOP

住所
香川県高松市太田上町1060‐11 太田第一ビル
代表電話番号
087・880・4159
地図
URL
https://www.hopforhope.info
確認日
2021.07.01

記事一覧

おすすめ記事

メールマガジン登録
メールマガジン登録
ビジネス香川Facebookページ